山南さんの切腹が決まったと聴かされた時、私は衝撃を受けた半面、やはり、という感想を抱いた。
◆◇◆◇
先日、山南さんは土佐藩士に斬り捨てられた小六君の仇を討つために決闘を申し込んだ。
決闘の様子は沖田さんと一緒に私も間近で見ていた。
山南さんには何度も稽古を付けてもらっていたから、どれだけ強いかは知っているつもりだった。けれど、あの時に見た山南さんの気迫は、普段の穏やかさからは想像出来ないほど凄まじいものがあった。
勝負は一瞬だった。
鮮やかかつ美しかった山南さんの剣捌き。殺し合いだったこともつい忘れ、私は見惚れてしまった。
決着が付いたあとの山南さんは、憂いを感じさせない、いつになく晴れ晴れとした表情をしていたのを憶えている。
これで思い残すことはない、と言わんばかりに――
◆◇◆◇
儀式が始まる前、沖田さんが私を呼びに来た。
「桜庭さん、山南さんがあなたと話したいそうですよ」
沖田さんはそう告げた。
本当は辛かった。けれど、この機会を逃せば二度と山南さんと話せなくなってしまう。
私は涙を必死で堪え、山南さんの元へ向かった。
山南さんは私を見ると、いつもと変わらぬ優しい微笑みを浮かべた。
――これから死んでしまうのに、どうしてそんなに笑っていられるの……?
私は悔しかった。
私闘はご法度。そんなのは分かっている。でも、山南さんのしたことが悪いだなんて私には思えない。
山南さんはただ、自分の可愛い教え子の無念を晴らしたかっただけなのに。
私はずっと、山南さんと生きていきたかった。
裕福じゃなくてもいい。子供達に囲まれながら、年老いていくまで一緒にいたかったのに――
想いのたけを山南さんにぶつけていくうちに、私の瞳から止めどなく涙が零れ落ちた。
山南さんはそれを、指先でそっと拭ってくれた。
「桜庭君、君も同じことを考えていてくれたんだな」
穏やかな声で山南さんが言った。
「死ぬまでのわずかな時間だが……、私は君を最愛の伴侶と想うよ……」
私は何も言えなかった。
山南さんは狡い。残された私はどうなるの?
山南さんがいない世の中なんて考えられない。
お願いだからいっそのこと、このまま逃げてほしい。もちろん、私も一緒に行くから。
でも、私の強い想いも虚しく、儀式は実行されてしまった。
「沖田君、介錯は必要ないよ……」
その言葉を最期に、山南さんは息絶えた。介錯人である沖田さんの手を煩わせることなく――
私はその場に泣き崩れた。そして、冷たくなってゆく山南さんの頬に触れた。
◆◇◆◇
あれからちょうど一年が経った。
山南さん亡きあと、私は新選組を除隊し、山南さんの遺志を継いだ。
周りには明るく元気な子供達。みんな、山南さんを慕っていた。
山南さんのようにはいかなくとも、私は私なりに頑張ってゆく。私の側で、山南さんがいつも見守っていてくれていると信じてるから。
私にとって、最初で最後の愛する人――
【初出:2007年2月25日】