決戦前夜、土方さんが私の部屋を訪れてきた。
「――少しだけでも、お前の側にいたかった……」
そう私に告げてきた土方さんは、いつになく弱気だった。
大切な友である近藤さんを失い、土方さんの心はこれまでにない位傷付いている。
こんな姿は、出逢った頃であれば決して見せることはなかった。
けれど今は、私に心を許してくれている。
そんな土方さんが堪らなく愛おしく想えて、土方さんにゆっくりと近付き、身体をそっと抱き締めた。
「土方さん」
土方さんを包み込みながら、私は囁くような声で言った。
「私はいつでも、土方さんの側にいます。どんなことがあっても、絶対にひとりになんてしませんから……」
「――桜庭……」
今度は土方さんが私を強く抱き締めてきた。
愛しさが込み上げる。ずっと、こうしていたい。
「――本当は……」
私を抱いたまま、土方さんが言う。
「お前を会津に残したかった。お前が何より大切だから、危険な目に晒したくはなかった。だが……」
土方さんの身体がわずかに離れると、互いの視線が交差し合った。口許に微笑みを浮かべ、優しい眼差しで私を見つめる。
「お前と離れるのも辛かった。俺の心の支えは、鈴花、お前だけだから……」
そこまで言うと、土方さんは私の唇に彼のそれを重ねてきた。
溶けてしまいそうなほどの深い口付けに、頭の中がぼんやりとしている。
不意に土方さんの唇が離れ、私の身体はゆっくりと布団の上に倒される。
「――鈴花……」
私を見下ろしながら、土方さんが口を開いた。
「俺と共に、死んでくれるか……?」
私は口許を綻ばせながら頷く。会津に残らず、土方さんに着いて行った時から心は決まっていた。
「土方さん、先ほどの言葉に嘘偽りはありません。――死ぬ時は、あなたと一緒に……」
言い終わらないうちに、私の唇は再び土方さんによって塞がれた。
こうして身体を重ねるのも今夜で最期。だからせめて、あなたを忘れられなくなるほど、決して離れることのないように、たくさん私を抱いて――
翌日、私と土方さんは共に最後の戦いへと赴いた。
幕府軍の劣勢は目に見えていたけれど、絶対に引くことなんて出来なかった。
近藤さんの無念を晴らしたい、と土方さんも私もそう思っていた。
私は馬に跨りながら、慣れない銃を手にし、無我夢中で戦う。
と、その時――
一発の銃弾が、土方さんの身体を打ち抜いたのが目に飛び込んだ。
土方さんが、崩れるように馬から落ちる。
「土方さん!」
私は必死で土方さんの方へ馬を走らせた。
けれど――
「――あ……っ……」
私の身体に、焼けるように熱いものが貫通したのを感じた。
視界がぼやけてくる。
いやだ……
せめて……
土方さんの側で死なせて……
意識を失う寸前、私は幻を見た。
木刀を持ちながら、悪戯っぽく笑う少年の姿を。
私は口許を綻ばせながら、少年の幻影に手を伸ばした。
ずっと、あなたと一緒よ、土方さん――
【初出:2007年6月7日】